Innocent -イノセント-
本当なら、こんな話をあたしが訊いてあげる義理はない。

こんなことまで喋ってくれとは頼んでもいない。

何が悔しくて、知らなくても良い汚れた世界の知識を与えられなきゃならないのか、
言えるもんならノンちゃんに告げ口したいくらいだ。

ノンちゃんに怒られてしまえば良いと思う。

でも、それが出来ないのが悲しい。

いくら響ちゃんがホストをやっていたと知ってたとしても、改めてこんな話を訊かされるのは悲劇だ。

ノンちゃんが悲しむのが分かってて、あたしが言えるはずがない。

響ちゃんも、それが分かってるからあたしに喋ってるのかもしれない。

だからこそ訊いてやろうと、挑戦的な気持ちが高ぶってくる。

どんだけ幻滅させる男なのか、あたしがしっかり見抜いてやろうとさえ、正義感にも似た高揚を覚える。


ノンちゃんの目を盗んで、響ちゃんの店に通い続けていたあたしが言うのもなんだけど……。


それでも、失礼女一華さんを響ちゃんが守るなら、あたしは絶対にノンちゃんの味方でありたい。

その為には、最後まで訊かなくてはならないと覚悟が決まったあたしは、だからこうして、


『ふ~ん、それで?』


と、先を促す。



「最初こそみっともねぇ有様だったけど、少しずつ俺のペースを掴んでいった。多少生意気な事を言っても、いつも一華はニコニコと俺の話を訊いてくれてた。
周りの奴らは、そんな俺を妬ましく思っただろうな」



あたしの覚悟にも気付かず、寧ろ、あたしの覚悟に気を良くしたのか、或(ある)いは開き直ったのか、響ちゃんは話し続ける。



「だから当然、足を引っ張ろうとする輩が現れた」



さっきまでの 『しまった』 って顔も忘れて、ベラベラと喋り続ける。



「そいつは、俺が他の席周ってる間にヘルプに着いて、一華に暴露したんだよ。俺が枕でNo,2までのし上がったって」



ついには、“枕” が禁句ワードだって事さえも忘れるほど、図々しくも話し捲る!!



「俺が一華の席に戻った時のヘルプの得意気な顔見た瞬間。ヤラれたって直ぐに気付いた」



うん、そうだろうね。

得意気にもなるだろうね。

間違いなくあたしだって、“枕” って言葉を遣って、今この瞬間にでも告げ口してやりたいって衝動に駆られてるくらいだしね!!
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