Innocent -イノセント-
「一華は、最初から見抜いてたんだ。俺がどんな営業スタイルかを。

そりゃそうだよな。色んなヤツを見て来てる一華は、自然と人を見る目が養われてる。
まだまだガキだった俺を見抜くなんて、一華にしてみりゃ容易い事だ。

だから、俺がNo.2止まりの原因も簡単に見抜いてた」


「……原因?」


「あぁ。何でもかんでも色仕掛けの仕事じゃ、女は離れて行って当然。そこには俺の気持ちが上辺だけしか存在してねぇからだって」


「……」


「言われてみりゃ本当にそうだった。No.2っつっても、客は三ヶ月もすりゃ俺から離れてく。

離れりゃ、また別の客の気を引いて……それの繰り返し。
所詮、色恋なんて三ヶ月サイクルだ。

それを継続し、周りにも気付かれずにやれるヤツはプロとみなすけど、それが出来ない俺は、枕するほどの価値もねぇって。

そう言う仕事のスタイルすら向いてないんじゃないかって、俺の今までをも全否定されて……、
そこまで言われた俺は、最高にカッコ悪くて笑えんだろ?」



うん、そうだね


……とは言えなかった。


声高々に笑う事も出来なかった。


てっきり、響ちゃんと同じカテゴリーにいると思ってた一華さんなのに。

響ちゃんを叩きのめした一華さんは、あたしが思っていた人とは……違う!?

そんな考えが、迂闊にも一瞬頭を過ったせいで、響ちゃんに同意する暇もない。


それでも……、



「じゃあ、その人はどんな仕事のスタイルだったの? 綺麗事言ったって難しい夜の世界なんでしょ? どうせ計算高いことしてたんじゃないの?」



あたしに根付いてる固定観念は、一華さんの人物像をそう簡単には覆そうとはしない。


その質問に答えるべく、響ちゃんはまだ長い煙草を揉み消すと、カウンターに両手をついてあたしを見る。



「計算じゃない」



瞬きもしないであたしを見続ける。



「アイツにあったのはただ一つ……信念だ」



そう言い切った響ちゃんは、驚くほど真剣な面持ちだった。
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