Innocent -イノセント-
「……し、信念?」
あまりに真剣な表情をするもんだから、ついついどもってしまう。
「あぁ」
「……」
「一華の接客は、女を武器になんかしねぇ。恋愛もどきのスリルを味あわせて、仕事に繋げようとはしねぇんだよ」
「……」
「接客は人対人だ。そこに打算を組み込んじゃなんねぇって考えだ」
「……ふ、ふーん」
「勿論、一華だって商売だから、売り上げのことは当然頭にはあったろうけど、
だからこそ、それに見合う仕事を自分に課してきた。
この店に来て良かったって思ってもらえる、誰にでも平等な真心ある接客をな」
「……」
「そうやって、人として信じてもらえる信頼を客から得て来たんだよ、一華は。
客の中には、一華の女としての部分を求めるしか頭にないヤツもいたろうけど、そういう奴等には毅然とした態度を貫いた。
色恋を絡めて一時の関係を続けるより、信頼を得て長く良い付き合いを保つ。
そうやって知り得た客達が、一華を支え続けたんだ。一華の人間性に惚れた客達が、な」
「……」
「でも、そこまで信頼を得るのは、簡単なようで実は難しい。
汚いやり方の方が、よっぽど楽に金を手に入れられる。
なのに、一華はそうはしなかった。
綺麗事だって笑う奴等がいても、一華はそのスタイルを守り通した。
何故だか分かるか?……七海」
えっっ?
ここであたしに振る?
そんなのあたしに振ったところで、分かるはずないじゃん!!
ホストの世界も、お水の世界も、夜の世界全てにおいて分かんないんだからっ!!
そもそも、どうしてこんなにまでも、あたしに一華さんという人間を理解させたがるのか……。
いくらあたしが一華さんを否定したからって、そんなにムキにならなくても良いと思う。
あたしに口を開かせる暇もなく、とくとくと喋り続ける響ちゃんの考えの方がよっぽど分かんない。
挙句、質問を投げ掛けられたって答えられるはずもなく、当然迷わず首をブルブルと左右に振った。
「そういうスタイルを貫き通した人物を、一華は間近で見て来たからだ。綺麗事だって笑う奴等を撥ね退けて、成功を収めた人を一華は見てきたんだ」
話が続くかと思いきや、ジッと人の顔を見て黙った響ちゃんは、
「…………それって、誰?」