Innocent -イノセント-


既に閉塞感のある喉は痛みさえ伴って、



「酷いよ……」



無意識に心の声が漏れ出たあたしの声は、あからさまに震えていた。

誰かを胸に宿しながら、ノンちゃんと結婚するなんて、こんな酷いことないと思う。

例え、それが本当の気持ちだったとしても、響ちゃんなら最後は


『もう過去の話だ』


って笑って吹き飛ばしてくれるって、どっかで信じてたのに。

そういう流れには程遠い今の現状に、それでも僅かばかりの期待を捨てきれないあたしは、



「一華さんは一人でも生きてける強い人じゃん!!だから響ちゃんには何も言わずいなくなったんでしょ?
でもノンちゃんは違うよ?
一華さんみたいに完璧じゃないし、ドジで天然だけど、だからこそ響ちゃんが必要なんだよ?
響ちゃんがいなきゃ、ノンちゃんはダメなんだよ!!
だからお願い……もう一華さんのことなんか忘れてよ」



震える声のまま、縋るように頼むしかなくて……。

だけど、



「七海? 勘違いすんなよ?
俺は望を愛してるし、大切だと思ってる。
ただ、愛し方は違えど、一華を愛してるのも本当だ。
この想いだけは、どうしても嘘をつくことが出来ない……ごめんな?」



僅かな期待はあっさりと絶たれた。



……でもいつか、七海が理解してくれる日が来るって信じてる。


付け加えられた響ちゃんの言葉をどこか遠くに感じながら、出来るはずがないじゃん!! って、反発心を追いやって、あたしは目を瞑った。



願わくは……。

響ちゃんが二度と一華さんと再会することがありませんように。


もし、偶然にでも逢ってしまったりしたら、



『抱いちまうかもな』



目を瞑って願う事しか出来ないあたしの頭の中で、響ちゃんが言った言葉が何度も繰り返されていた。
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