Innocent -イノセント-
「そう? お花のアレンジを卸してるお店のパーティーにお呼ばれしてるから、ちょっとだけ頑張っちゃったのよ……」
そう尻すぼみに言ったノンちゃんにチラッと目を向ければ、照れ臭そうに顔を赤らめている。
あたしの言い訳を信じてくれたらしい。
勿論、綺麗だと言った言葉に少しの嘘も混じってはいない。
だけど、それを理由に隠した真実までには気付かないノンちゃんは、恥ずかしそうにカウンターの中の響ちゃんへと駆け寄ると、二人で何やら話し出した。
ノンちゃんが離れた事で、少しだけ冷静になれたあたしは、そんな二人を眺め見る。
上品な黒のパーティードレスを纏ったノンちゃん。
いつも下ろされてることが多い髪は、ルーズな感じでアップに纏められている。
瞳にはアイラインが引かれ、長い睫毛とともに、いつも以上に大きく見える瞳のノンちゃんは、口元にはヌードカラーのグロスを乗せて、溜息が出るほど本当に綺麗だった。
綺麗な瞳でノンちゃんは響ちゃんを見上げてる。
そんなノンちゃんの腰を抱き寄せ、耳元で話し掛ける響ちゃんは何も変わらない。
鼻の下まで伸びてるんじゃないかってほど、愛おしげにノンちゃんを見つめるのも、いつも通りの響ちゃんの姿だ。
それは、とてもあんな衝撃告白をした人物とは思えないほどで、ノンちゃんだけを愛してるんだと、あたしに錯覚さえ覚えさせる。
こんな二人の姿は、今まで当たり前の様に何度となく見て来た。
相思相愛の姿に、嫉妬すら感じるほど羨ましく思いながら見て来た。
なのに今日は、この光景が物悲しく見える。
こんなにも綺麗な奥さんがいるのに、ノンちゃんだけじゃダメなの?
傍(はた)から見れば、誰も邪魔なんて出来ないほど幸せそうに映るのに……。
いつか響ちゃんは、ノンちゃんだけを見てくれるようになるの?
ぐるぐると思考を巡らすあたしと、二人の世界を作り出してるようにも見える響ちゃんとノンちゃん。
そんなあたし達を我に返らせたのは、
「アレ? まだ開店前だったかなぁ?」
ドアを開け店に入って来た、OL風のお客さんだった。