Innocent -イノセント-
狭いフロアに出てボタンを押すと開いたエレベーター。

二人乗り込んだ瞬間。



「望、あんま遅くなんなよ? 遅くなるなら電話しろ、迎え行くから。七海も気を付けて帰れよ?」



心に別の人を置きながら、器用にもノンちゃんのことも心配する響ちゃんが追いかけて来た。

ノンちゃんを心配するついでに、あたしの心配もオマケに付け加えた響ちゃんに、



「折角なんだし、息抜きに遊んでくればいいじゃん。こんな綺麗なんだもん。他の男の人達が黙ってるはずもないしね」



これくらいの意地悪言ったって、罰は当たらないと思う。

響ちゃんの話を訊かされたあたしに比べれば、こんな小っちゃな仕返しなんて可愛いもんだ。


……と、思ったけど、



「ばっ、七海!! なに言ってんだよ!!」



思いの外、効果があったらしい。



予想以上に動揺の色を見せる響ちゃんが、



「用が済んだら、さっさと帰って来いよ?」



口煩く言葉を続ける姿に不敵な笑みを投げつけると



「望、いいな? 変な男なんて、ぜってぇ相手にすんじゃ──…」



最後まで言わせず 【閉】 を押し、無情にもエレベーターを閉めてやった。


動き出したエレベーターの中まで聞こえてくる、



「チッ、くそっ!!」



取り残された響ちゃんの空しい苛立ち。

それを耳にしたノンちゃんは、苦笑いを浮かべながら尋ねてくる。



「響とケンカでもした?」



ううん、違うよ?

ノンちゃんがいながら、響ちゃんに訊かされた本心を知って、遣る瀬なくてしょうがないんだよ。

ノンちゃんを傷つけるなら、絶対に許さないって、頭にきて仕方ないんだよ!!
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