Innocent -イノセント-
「お待たせ、七海(ななみ)」



優しい声で私の名を呼び、イチゴミルクを差し出すその瞳を見て、キュンと胸が痛むあたしは……、

ノンちゃんとの距離に、苦しさを感じてしまう。

ノンちゃんを思い浮かべては、ズキンと胸が痛んでしまう。



「……いただきます」



その痛みを隠して口に入れたイチゴミルクは、想像通りに甘かった。

甘い分だけ子供扱いされてる気分にさせる、イチゴミルク。

そんなのより、やっぱりソルティードックがいい!! って言いたくなる。

その思いごと飲み込むように、グビグビと飲んでグラスを置けば、ジッと様子を窺う響ちゃんの瞳とぶつかった。


どう? って確かめるようなその瞳を前に、



「美味しい」



あたしは平気で嘘をつく。

そう言えば、



「だろ?」



得意気に響ちゃんが笑ってくれるから。

嬉しそうに頬を緩めるその笑顔は、ノンちゃんにではなく、他には誰もいないこの場所で、ズルイあたしが今だけは独占できるから。


それだけでいい。

それだけで充分だし、響ちゃんとノンちゃんの仲を壊すつもりはない。

尤も、美男美女で仲が良いお似合いな二人に、入り込む隙はチリほども見つからないけど……。

もし見つかったとしても、ズルイあたしには、そんな権利は初めからない。


あたしには、幼馴染でもある彼氏がいる。

キスまでしかしたことはないけれど、れっきとした恋人がいる。

生まれた時から隣に住む涼太(りょうた)と付き合い出して1年。

1年経っても、好きだ好きだと前面に押し出す涼太は、物心ついた時からあたしだけを想ってくれている。

そんな涼太を、あたしもまた大切だと思うのに……。

何故だろう。

響ちゃんに対しても、ノンちゃん対しても、

それぞれに違う痛みを伴う胸の奥にあるこの想いを、どう片付けて良いのかが分からない。

こういう思いを何て言うんだろう。

これはイケナイ "恋" なんだろうか。
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