Innocent -イノセント-
自分の中に小さく芽生えた感情に気付き、それを持て余し過ごすようになって、もう少しで1ヶ月。


この1ヶ月。

週に3度も響ちゃんに会いに来るようになってもまだ、今もこの想いにハッキリとした名前をつけられないでいる。


こうして燻り続けるあたしの気持ちを、誰も知らない。

独占していた、あたしだけの笑顔をサッサと引っ込め、



「好きなだけお替りしていいぞー」



残りのイチゴミルクが入ったピッチャーを、あたしの前にデンと置いた響ちゃんも、当然知らない。

あたしがイチゴミルクを飲みたくないことも、あたしの燻り続けるこの想いも、気付きもしない。


あたしを姪としてしか見ずに、店の準備に取りかかる響ちゃんは、

あたしが男として響ちゃんを見てると知ったら、切れ長で綺麗な目をまん丸くするだろうか。

だとしても、そんなに驚くこと? 

って、訊きたくなる自分もいる。


だって、義理だとしても伯父さんって呼ぶには相応しくない身姿。

ノンちゃんにしてもそうだけれど、響ちゃんもまた、伯父と言う位置づけにしては若すぎる。

響ちゃんの歳は20代後半……だと思う。

ノンちゃん同様、教えてはくれない。

恐らく、ノンちゃんと同い年位だと思われる。

響ちゃん曰く、



『この店はな? 非現実的な場所でなきゃならないんだ。時間を忘れて疲れを癒す空間。

そんな場所でお客様の歳を訊くのはナンセンスだし、オーナーである俺も教えたりはしない』



だ、そうだ。

なのに、この場所にいながら、あたしをしっかり女子高生だと年齢特定する響ちゃんはズルイと思う。

あたしだけが、ズルイわけじゃないと思う。


ノンちゃんの真似して、俺も伯父さんって言われたくないと、初対面で主張した響ちゃん。

だから、しょうがなく響ちゃんと呼んであげている。

本当の名前は響哉(きょうや)って言うのに、真似返しでノンちゃんが響(きょう)って呼んでるから、あたしもそれに "ちゃん" を付けて呼んであげている。

身姿だけでも無理があるのに、その上呼び方がこんなんだから、余計に伯父さんとは程遠いと感じてしまう。

大人の男として認識してしまう。
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