Innocent -イノセント-
「……なーんかな? すげぇ視線感じんだけど、気のせいか?」
磨いていたグラスをライトに当て、曇りや汚れがないかチェックする響ちゃんが、チラリとあたしを見る。
どうやらあたしは、理不尽な思いを眼力に乗せ送っていたらしい。
「気のせいなんかじゃないよ」
「ん?」
「響ちゃんはモテルだろうなぁ、って感心して見てたの」
「なんだ? いきなり」
「響ちゃんモテルでしょ? 絶対モテルよね?」
「知らね。興味ねぇし」
他の女にも、あたしの話自体にも興味がないらしい響ちゃんは、曇ってる箇所を見つけたのか、
「俺は望しか興味ない」
って、またグラスに視線を戻しキュッキュッと磨きだす。
本当にそれが本音だと思う。
思春期の女の子の前で、愛する人への想いを隠す気が全くないらしいズルイ響ちゃんではあるけれど……。
だからこそ、正直者だとも言える。
だったら、質問を変えてみればいい。
「質問間違えた」
「ん?」
「響ちゃん、女の人い~っぱい泣かせてきたでしょ」
「…………」
ほらね?
やっぱりね?
正直者の響ちゃんは押し黙る。
「ズルイよね、響ちゃんは。きっと、響ちゃんが知らない所で、泣いて傷ついてる人が一杯いるんだろうね。
でも響ちゃんは、そんなこと気付きもしないだろうし、自分はそう言う経験したことないくらい、モテるんだろうね」
「今日はヤケに絡むな」
困り顔で苦笑いしたって、あたしには分かる。
だって、絶対にそうだもん。
女の人にモテモテの響ちゃんは、女の人を泣かすことはあっても、自分が泣いことなんてないはず。
好きな女性が出来ても、響ちゃんさえ気持ちを告白すれば、間違いなく相手は断らないと思う。
これだけ顔も良くて色気もあれば、断るはずがないと思う。
だから響ちゃんは、傷ついて悩んだり泣いた経験なんてあるはずがない。
なのに……。