その笑顔が見たい
さっきまでの紗江とのやりとりを思い出すだけで寒気がする。
「どうしたらうまく離れられる?」
そればかり頭の中で考えていると、いつのまにか葉月の会社の駅に到着した。
まだ社長と葉月のことを聞いていない。葉月が誰かのものなんて考えたくもない。
地下鉄の階段を一段抜かしで駆け上がる。
葉月の会社が入っているビルのエントランスが見えた時、正面玄関からちょうど出てきた男性に見覚えがあった。
この前、葉月と一緒にいた社長だ。
小さな女の子が「パパ」と言って駆け寄る。その後ろには若い綺麗な女性が立ってた。
三人は仲睦まじく寄り添って、道路脇に停めてある車に向かっている。
どういうことだ?
いっぺんにいろんなことがありすぎて、思考回路はすでにショートしている。
頭に血が上って抑えが効かない。体が勝手に動いてしまった。
その男性が車のドアノブに手を添えようとした時、女性の間を割って手を抑える。
「あんた、葉月のなんなんだ!」
そのまま腕をグッと引いて、車に乗るのを阻止した。
いきなり腕を掴まれた社長は「ん?」と言っただけで冷静だった。
そればかりか、俺の顔を見て余裕の笑顔を見せている。
バカにされていると思って、余計に頭に血が上った。