その笑顔が見たい
「家族がいるのに、葉月をたぶらかしてどういうつもりなんだって言ってんだよ!」
声を張り上げたために、周囲が何事かと立ち止まる。
「ちょっと、ちょっと、あなた何?!」
一緒にいた女性が慌てて二人の間に入って止めようとするが、男性がその女性を守るように自分の背中に隠した。
女性は興奮気味に顔だけ男性の肩越しから出してまだ何か言おうとしている。
なのに不意に動きが止まった。
「ちょっと!あなた…翔太くんじゃない?」
「はっ?」
いきなり名前を呼ばれてあっけにとられた。
誰だ、っけ?
とっさに浮かんだのは、だらしない俺の女性関係の過去。
まさか…
「円香(まどか)よ、はづと同じ高校だった」
は、づ? ま、ど、か!?
「あっ…」
「わー、思い出してくれた!? いやー懐かしい! はづから男前になったって聞いてたけど、本当だ!」
今までの様子を遠巻きに見ていた野次馬が「知り合いか」と拍子抜けした声を漏らしながら散っていった。