その笑顔が見たい
この状況についていけなくて、突っ立ったったまま唖然とする。
円香さんの顔を見て、記憶を辿り寄せる。
高校時代、葉月といつも一緒にいた女の子だ。
十年も会わないとピンとこないが、葉月を「はづ」と呼んでいたのは当時の同級生だった。じゃ、横にいる社長と言われているのは誰?
「翔ちゃん!!!!!!」
エントランスから葉月が慌てて走って来た。
「何の騒ぎ? どうしたの?」
息を切らしながら、俺と円香さんの顔、そして最後に男性の顔を見た。
勘違いした俺は恥ずかしい事この上ない。
男性は「ははは」と豪快に笑うだけ。
説明をし出したのは円香さんだった。
「葉月のなんなんだってすごい剣幕で旦那を締め上げてたよ」
円香さんが面白おかしく状況を説明する。
すでに話が盛られてる。
「エーーー?!」と驚く葉月の顔が見られない。
「締め上げてません」
蚊の鳴くような声で一応盛った分を訂正する。
そこで初めて気がつくことがあった。
「…旦那?」
円香さんは何食わぬ顔で「そうよ、うちの旦那」と男性の腕に自分の腕を絡めた。
じゃ、あの日の葉月との会話は?!
「待って、この前…ワインを買ってうちに行くって」
そこまで言って盗み聞きしていたと墓穴を掘る。