その笑顔が見たい


その日の午後は外回りもなく、事務処理などに時間を割いた。
そろそろ新製品の発表がある。新製品の勉強会にも参加したい。
当面の予定を考えながら計画を練っていた。


「待って、待ってください!嘘っ!」


パソコンに向かって集中していると、それを遮断されるようなただ事ではない声が聞こえた。
隣の宮崎を見ると顔面蒼白で受話器を持ったまま固まっている。


「なんかあった?」


仕事でそんなに焦るようなリスクを彼女に負わせていないはずだ。
プライベートなら会社の固定電話は使わないだろう。


「どうしよう」


目の焦点が合わないままだ。
俺の声も聞こえていないようだ。


「おい!」


俺は声を張り上げた。
その声に反応してこちらを見ると、目にはいっぱい涙をためていた。


「どうしたんだよ」


周りも異変に気がついて、注目していた。柳さんも課長席からこっちを見ている。
それまでは周囲のことも目に入っていたが、宮崎の言葉に気が動転する。


「本木さんが…危ない、どうしよう、ごめんなさい、ごめんなさい」


宮崎の言葉は支離滅裂だった。
その言葉の中に反応した名前。


「今、本木…って言った?葉月の事?」


虚ろな目で俺を見ながら「コクン」とひとつうなづいた。


「なんで?なんで葉月が危ないんだ。電話は誰からだったんだ」


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