その笑顔が見たい

「あのさ、察して欲しいんだけど」


「何が?!」

全く空気を読まない母親に親父が笑って声をかけた。


「入院手続きもあるし、着替えも持ってこよう。葉月ちゃん、少しの間、翔太を頼んでいいかい?」


葉月は椅子から立ち上がり「はい」と返事をした。


「そうね、葉月ちゃんお願いするわ」


「わかりました」


両親がドアから出ていくところまで葉月は見送っている。
すると母親は一度立ち止まって葉月の両腕を手で掴み「もう一度顔を見せて」とゆっくりと葉月を見ていた。

そして「お帰りなさい」と言ってその場を後にした。
葉月は涙をこらえながら、ゆっくりとベッドに戻ってくる。


「おいで」

左手には点滴。
右脇腹を刺されたから、右手を動かすにも痛みが走る。
不自由な体の中でも自由になる手の平を大きく広げて葉月を迎え入れた。
その手を握り返した葉月はポロポロと涙をこぼしている。


「翔ちゃん、ごめん、そして助けてくれてありがとう」


「俺こそ…巻き込んじゃってごめん」


「いいの、翔ちゃんがいてくれるだけでいいの」


「俺も葉月がいてくれるだけでいい、これからもずっと」


繋いでいた手をぐっと引き寄せ、俺たちは再会して二回目のキスをした。



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