その笑顔が見たい

触れるだけのキスじゃ物足りなくて、重ねた唇は強く葉月を求める。
葉月を感じたくて、さらに自分に引き寄せる。
葉月の香りが鼻腔をくすぐり、ケガ人のくせにキス以上のことがしたくなって首筋に唇を寄せた。

「翔ちゃん!」

離れようとする葉月を力一杯引き止める。

「うっ!」

傷が痛んだ。

「だから、もう、安静って先生がおっしゃってたでしょ」

痛みで悶えている俺からそっと葉月が離れていくのが嫌で手だけは離れないように捕まえる。
不自然な形で繋がれた手を葉月は椅子に座って握り直してくれた。

こんな事に巻き込んでしまったことをまずは詫びなくては。
それから、俺のだらしない女性関係の過去を。
巻き込んだ以上、説明なしで葉月をそばに置いておくことが卑怯に思えて来る。


「葉月…今回のこと、ちゃんと話す。聞いてくれる?」

握った手に力が入る。
けれど葉月はゆっくりと頷いてくれた。


「彼女…永井さんは二ヶ月前に取引先で告白されたんだ。俺が担当から外れるからと挨拶に行ったその病院が最後になる日に俺の上司やその病院の人たちの前で公開告白みたいに」


葉月は「へぇ」と感心しているように相槌を打つ。


「それまで直接は関わらなかったけれど、その病院に行くと事務局で必ずお茶を出してくれていた。その時は可愛いお嬢さんだなと思っていたくらい」


「可愛いと思ったんだ」


「可愛いって思ったんだ」と少し膨らむ頰をそっと撫でたいのを我慢した。


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