その笑顔が見たい
「ただそれだけだった。彼女もそんな素ぶりは何も無かった。俺にも何も特別な感情が無かったんだ。それに出会った当時は…」
次の言葉を言うのはためらわれたが正直に言おう。
「俺に彼女がいたし」
葉月は「うん」と頷いて、それに対しては何も反応しなかった。
葉月の反応を気にしながら、先に話を進める。
「だから公開告白にあった時は驚いた。一緒に聞いていた上司は面白がっていたが、その病院が最後になる日と思って、慌てて告白してきたんじゃないかと勝手に思っていたんだ」
その後に自分から食事に誘った。
紗江から告白された時には、あまり時間を割いてやらず、ほったらかしにしていた当時の彼女に愛想を尽かされ別れていたから、紗江の勇気ある告白になんとなく乗ってみたかったのかもしれない。
今となっては何も考えていない自分の浅はかな行動に腹が立つ。
自分から誘ったことには触れずに、紗江が関わっていなかった頃と印象が違うことを語り始めた。
「第一印象は大人しい子と思っていたのに、意外と積極的だった」
この言葉に葉月が反応した。
「積極的だったって、彼女が?」
そこに食いつくのか…?
「え、ああ…」
どうする?
最初に会った日に体の関係を持ってしまったと言ったら引くだろうか?
しどろもどろになる俺を見て葉月が質問して来る。