その笑顔が見たい
「私も翔ちゃんと離れていた時に色々とあって…」
ああ、葉月の過去のことだなとすぐに気がついた。
「お酒を出すお店で働いていたって言ったでしょ」
「うん」
「そのお店ってキャバクラでね…」
そんなのとっくに知ってるよ。
「ふーん」
大したことないように相槌を打つ。
「えっ?驚かないの?」
最初は驚いた。佐川さんに先に聞いておいてよかったよ。
「別に…」
葉月が引っかかってる過去を取り除きたくて、葉月とどうやって向き合うかずっと考えていて出た答え。
「別にって、だってあのね…」
俺の過去のだらしない話を暴露したから、自分も何か話して俺の気持ちを軽くでもしようと思っているのか、そんなことを真面目な葉月なら考えてるんだろうな。
「その過去があったから今の葉月がいるんだろう?辛いことも悲しいことも含めたいろんな経験をして、今の葉月が俺のそばにいるならそれで良い」
わざわざ辛い過去を思い出すように語らなくて良い。
葉月の過去は記憶の彼方へ葬って、二度と掘り起こせないように俺が守るから。
佐川さんと話をした時から覚悟はできている。
「翔ちゃん…」
葉月の目に涙が溜まって今にもこぼれ落ちそうだ。
「葉月、ずっと一緒にいて」
「うん」
「もう…離したくないんだ」
「私も。翔ちゃんと離れたくない」
その言葉に鼻の奥がツンと痛くなる。
握った手を引き寄せ、またキスをした。
葉月はいつから俺を想ってくれていたんだろう?
いつかゆっくりその話を聞き出そう。
さすがに話すぎて疲れた体から睡魔がやってくる。
これが夢なら覚めないでほしい。
葉月の手の温もりを感じながら、ゆっくりと眠りについた。