その笑顔が見たい
でも自分の手は汚したくなく、ちょうどタイミングよくコンタクトを取れた紗江に俺が結婚をしたいのは紗江なのに、葉月が横槍を入れて来たなどと有る事無い事を吹き込んで精神的に追い詰めたそうだ。
「お前と結婚するって話は永井さんの虚言だけじゃなかったんだな」
柳さんはフーッとタバコの煙を吐きながら煙そうに目を細めた。
「S医院との取引は大丈夫ですか?」
「大丈夫だ。事務長がな、謝罪しに来たよ。こっちにも非があるけど、あっちのお嬢さんは犯罪者になっちまったからな」
紗江のことを思うと心が痛む。
俺と出会わなかったら、こうした犯罪に巻き込まれなかったはずだ。
「余計なこと考えるな。お前は変なところに温情をかける癖がある。冷たいと言われてるようだけど、十年も一人の女を思ってたなんて泣けてくるねー」
「からかわないでください」
「ま、その間、たくさんつまみ食いしてるけどな」
「ちょ、ほんとに勘弁してください」
「大好きなはーちゃんには言わないよ」
と言いながら、黒い笑いを残し、喫煙室を後にした。