その笑顔が見たい
「ピンポーン」
タイミングを計ったように玄関のベルが鳴った。
「誰か…来た」
息も絶え絶えに葉月が玄関に出ようとするが「いいよ」とそれを阻止する。
「でも…」葉月の抵抗は抑え込めるが、玄関のインターフォンを止めるのは無理だった。
「ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン!!!!」
誰だ、連打するのは。
「ちっ!」
玄関に出ようとする葉月を止めた。
「服、直して!」
「あっ!」
めくれ上がったシャツを俺以外に見せるつもりはない。いくら兄弟でも。
インターホンのカメラに写っている聡を睨みつけた。
不機嫌な顔を隠さずに玄関を開けると
「サプラーイズ!」
聡と結婚が決まっているその彼女、そして葉月の両親にうちの両親、円香さんと佐川さんと二人の愛娘だった。
「は?」
親類のようなものだ、遠慮がない。
「お邪魔しまーす」
一斉にドタドタと家に上がって来た。
「まじかー」
葉月はこの襲来にあたふたしている。
「おもてなしするものが何もないよ」
と言ってるが、「あるあるー」とうちの母親と葉月の母親が皿や鍋ごとの料理を運んで来た。
どうやら隣の実家で仕込んで来たらしい。
「これ、飲み物」
佐川さんがビール、酒、焼酎、ノンアルコールとたっぷり入った袋を手渡す。
ただ騒いでる聡を見て「お前は?」と催促すると「俺は特別ー」で手ぶらだそうだ。
そういうわけにもいかないと、彼女がデザートを持参してくれていた。
葉月との甘い時間はお預けになってしまったが、こういう時間の過ごし方も嫌いじゃない。
家族がまたこうして一緒に居られる時間が来るなんて、あの頃は思わなかった。
葉月がいなくなったあの日、絶望に打ちひしがれた。
あんな思いは二度としたくない。
だから葉月をもう離さない。