その笑顔が見たい
自然に聞いたつもりが、声が少し上ずった。
ニコニコしていた聡の顔が一瞬にして曇る。
「うん」
そんな一言だけではなく、他にもたくさん話して欲しいのに、聡は話を続けようとしなかった。
それなら…
今日の仕事の段取りを瞬時に頭に浮かべ、多少、無理をすれば早めに上がれることを計算する。
「聡、今日は何時に終わる?」
「夕方、6時には終わるよ」
「俺もそれくらいには終われる。今夜、飯でもどう?」
「お、いいねぇ」
聡が嬉しそうに目尻を下げた。
「…葉月、葉月もどうかな? できたら三人で会おうか」
いつも三人は一緒だった。だから当然の誘いだと思っていた。
しかし聡から出た言葉に絶句する。
「葉月は、来られないと思う」
「えっ、なんで?」
「葉月とは一緒に住んでないんだ」
俺らより二つ年上の葉月は今年二十八歳になる。
もしかしたら結婚でもしたのかと頭をよぎるとそれは見当違いだった。
それよりも衝撃な言葉を聡が告げた。
「あの日から俺らバラバラに暮らしてるから、葉月は親父と暮らしてる」
これがさっき聡の顔を曇らせたわけか。
葉月のこと、ちゃんと教えて欲しい。
今どこで何をしてるのか、きちんと知りたい。
しかしこの後、電話を終えて僕を探している主任から連絡が入り、慌てて聡と連絡先の交換をし、お互い仕事が終わったら連絡をすることとなって聡とは一旦別れた。