その笑顔が見たい
聡と別れて二件ほど引き継ぎの挨拶をした後、帰社した。
外出中の連絡事項を営業アシスタントの宮崎エリカ(みやざきえりか)から引き継ぐ。
彼女は俺がエリア担当を変わった時に、専属アシスタントとしてついた。
今までは数人の営業に一人の兼任アシスタントがいて俺のサポートをしてくれていたが、期待されているのかどうかは分からないが彼女が専属で俺についていた。
宮崎は俺より二つ年下の24歳。常務の遠縁で縁故入社だということと、それに甘えず仕事ぶりはなかなかだというデータのみが俺の頭の中にはインプットされている。
彼女は自分の容姿に自信があるようだが、そんなのは二の次だ。
仕事さえしてくれたら良い。なのに初日から、媚びた目つき、妙なスキンシップをして来た。
ただ書類をやりとりするだけなのに、いつも指が触れる。
その後のリアクションが問題だ。
「きゃ、すみません」と頰を赤らめ照れてる…ふり。
ただ指が触れただけで、そのリアクションは「純粋」をアピールしているのか知らないが、俺にはそのわざとらしさが面白いだけだ。
そんな見え透いた誘いに嫌悪する。だから極力気がつかないふりをしている。
そんなことに労力を使うなら、さらに仕事に気を使って欲しい。
そもそも社内恋愛は俺にはありえない。
社内の女子社員から何回かアプローチされたこともあるが、仕事をする場に恋愛を持ち込むほど恥ずかしいことはない。
誰と誰がくっついたとか別れたとかで噂になるようなリスクの高い恋愛をする気にはなれないということだ。
だからって誰とも付き合わないわけじゃない。
それなりに恋愛はして来たが、どの女性とも未来を想像することが難しく長くは続かない。
その原因は自分でもなんとなくわかっている。
帰社してから優先順位を決めて集中して仕事を片付ける。
定時が過ぎた頃には、キリが良く仕事が片付いていた。
するとタイミングよく、机に置いておいたスマホに着信を知らせるように振動した。
液晶画面には登録したばかりの聡の電話番号。
スマホを手に取り、話しやすいように急いで廊下へと進む。