その笑顔が見たい


「聡、お疲れ。終わった?」


「うん、今、職場出るとこ」


「俺もキリがいい。待ち合わせ、新宿あたりにしようか」

聡の病院は都下だが、新宿まで電車で三十分で着く。


「わかった」


そう返事して通話は切れた。
電話を切って新宿の街を頭に思い浮かべながら振り返ると、宮崎がすぐ後ろに立っていた。
なんとなく予想はついていた。


「お疲れ様」


何食わぬ顔で通り過ぎる。
ちょこちょこと後を追ってくる宮崎を気にしないように席に着くと帰り支度を始めた。


「あの…もうあがりですか?」


マスカラの付いたまつげを多めに瞬かせ、目をうるうるさせながら聞いてくる。


「うん、宮崎さんも他に業務がなかったら上がって。じゃ、お先に」


彼女がまだ何か言いたげにしていたが、カバンを持ってそのままオフィスを後にした。
様子見に後をつけて、立ち聞きか。
きっとスマホに表示された電話の相手もしっかりと覗き見していただろう。
過干渉されるのは考えものだと思う。
だからアシスタントの仕事も最低限のことしか振らない。
彼女じゃなくても誰でもできる仕事だけ。


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