その笑顔が見たい
笑顔が止まり、一瞬、顔を強張らせた聡はフーッと息を吐き、一気に残りのビールを飲み干した。
それから「追加、頼んでいい?」とメニューを広げてそれに視線を落としながら
「親父の借金」
と、酒の追加を頼むようなトーンで呟いた。
「親父がさ、友達の保証人になってて、その友達がいなくなっちゃった…なんていう、ドラマの話が現実になった嘘みたいな話」
店員を呼んで、「レモンサワー」と二杯目の飲み物を頼んでいた。
その様子を黙ったまま見ていると目が合う。
「そんな顔すんなよ」
「えっ?あ、いや…」
俺はどんな顔をしていたのだろうか?
うまく言葉が出てこない。
そんな俺の表情を見て、聡が意を決したように話し始めた。
「あの日、翔太に話しする暇もなく夜中に出て行ったんだ、ごめん、何も言わないで」
聡もあの時の俺と同じように寂しそうな顔をしていた。
「すごい、ショックだった」
当時のことを思い出すと今でも悲しくて寂しくてやりきれない気持ちになる。
「ごめんな。おふくろのじいちゃんが迎えに来ててさ、おふくろと葉月と俺でじいちゃん家に行くはずだった」
あの日のことを思い出しているんだろうか、聡は新しく運ばれて来たレモンサワーには口もつけずにそれをじっと見ていた。
「おじさんは?」
「家も取られちゃったしさ、じいちゃんも一緒に来いと言ってたのに甘えられないって、俺らと籍を抜いて一人で返済しようとしてたんだ」
「ごめん、気づいてあげられなくて」
「気づくわけないよ、借金がわかって出て行くまで1週間と無かった。ま、親たちは、かなり前から話してたみたいだけど葉月や俺が知らされた時はほぼ決定事項」
子供だった俺らは何もできなかった。と悔しそうに顔を歪ませた。