その笑顔が見たい
「そうだな、一応、葉月に連絡しておくわ。けど、気長に待っててな。いつも忙しいってなかなか会えないから」


「そうなんだ。仕事、忙しいの?」


「んー、それもあるかもしれないけど、あれじゃん、男」

聡が心なしか嬉しそうに目を細める。


「…男?」

思いもよらなずに出たキーワードに、ついオウム返しをしてしまう。


「登録している派遣会社の社長が葉月のこと可愛がってくれてるっていうしさ、結婚でもするかもなー、むしろして欲しいなぁ。葉月だっていい歳だし」


姉が幸せになって欲しいという弟の願望か、はたまた現実なのか、底知れぬ寂しさに襲われる。


「そしたらさ、俺もなんかスッキリするっていうか。葉月は幸せになってくれないとな」


聡が大人びて見えるのはこうして俺の知らない顔をする時だ。
離れていた時間、想像以上に辛い思いをしたのかもしれない。
同じく葉月も。


「しかしなぁ、葉月、肝心なことはあんまり話さないんだよな、俺に。だから男がいるのか、幸せなのか、ハッキリわかんないんだよな」


「聡に心配させたくないんじゃない?」


「わかってる、わかってるけど俺だってもう二十六(歳)だぜ。少しは心配させてくれ、頼ってくれって思う訳よ」


酒が回ってきたのか、聡は本音なんだろうなという言葉を吐き出していた。
考えてみれば酒を一緒に飲むのも、こうして居酒屋へ来るのも初めてだ。
なんせ俺らは成人してから初めて会ったのだから。

葉月は俺に再会しても聡と同じようにまだ弟扱いするに違いない。
十年経って、それなりに成長しているはずなんだけどな。


いつ会えるともわからない葉月の「今」を想像する。
しかし思い浮かぶのは高校生のままの葉月だった。
葉月はどんな女性になっているのだろうか?
聡とは近いうちにまた会う約束をして二時間近くいた居酒屋を後にした。



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