その笑顔が見たい
「翔ちんっていつまで言うんだよ」

「嫌なの?」

「別に」

「なら良いじゃん。翔ちんは恥ずかしがり屋なんだから」

俺の脇腹をツンツンと人差し指で突っつく。

「わ、やめろよ、くすぐったいな!」

桜木の長所の一つに人を和ませる話し方がある。
人と一定の距離を置く自分とは違った彼の性格は人間関係の潤滑油として案外救われているのかもしれない。


「まんざらじゃないくせに。翔ちんってさ、ほんとは可愛いのに冷たく見えるの損してるよ」


「なんだ、それ」


「いや、こっちのことー。それよりさー珍しいね、毎日、社食なんて」


「ああ、連休前って相手先も反応悪いし、それよりも片付けたい仕事あるから」


「なるほど」


オフィスにいる時よりも砕けた会話をしながら食堂へ向かう。
食堂に行く時は桜木が一緒のことが多い。
その理由は


「翔ちんと食堂行くと、おばちゃんがおまけしてくれるんだもん」

と言うことだそうだ。


子供か!と言いたいところだが、彼と話しているのは嫌いじゃない。
仕事の話も参考になることが多い。こうした少しおどける癖があるが桜木も仕事はかなりできる方だ。

彼はいい意味で懐に入るのが上手いようで、最初から俺の警戒は取っ払われ、会社で唯一、気の許せる存在となっていた。



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