その笑顔が見たい
食堂のメニューディスプレイの前で目をキラキラさせながら覗く桜木の横に並ぶ。
「A定食にしよーっと。翔ちんは?」
「ん?同じで良いや」
「なら、翔ちんが先に並んで」
大げさに俺の後ろに回り込む。
「わかったから」
上機嫌に俺を前に並ばす桜木の魂胆は見え見えだ。
理由はわからないが、俺は社食の調理場で働いている女性たちから恩恵を受けている。
たまにしか行かないのにこっそりと「おまけ」をつけてくれるのだ。
俺と一緒に食堂に来ている社員にも同じようにおまけしてくれる。
最初は柳さんと一緒にいたからだとばかり思っていた。
社内での彼の人気は絶大で、関連会社、取引先の女性からも時折お誘いを受けていたからだった。けれど柳さんと一緒じゃなくてもおまけは変わりなくつき、一緒にいる仲間にも振る舞われたことを思うとどうやら「俺」におまけをつけてくれているようだ。
その証拠に桜木一人で行っても何もなかったと肩を落としていた時があったから。
些細なことだけれど、人に好意を持たれていることは悪い気がしない。
前に並んだ俺の後ろを嬉しそうにくっついてくる桜木はまるでシバ犬のようだ。
尻尾をフルフルさせて期待に満ちている目。
「子供かよ」と思いながら、ふと幼い頃の葉月を重ね合わせる。
大好きなソフトクリームやパフェを前に、目をキラキラさせていたなと。