その笑顔が見たい
A定食と書かれている窓口に行き並ぶ。
スムーズに進み、エビフライ、ハンバーグ、ポテトサラダ、おひたしとメニューの一式が乗っているトレイが何人か分すでに並べられていたのに、自分の番になった時はご飯とお味噌汁を追加して「はい」と直に出来立てが手渡しされる。

「ありがとうございます」

IDカードをタッチして精算し立ち去る。
調理場の女性たちとはほぼ話はできない。
挨拶とお礼だけ。それに彼女たちは髪の毛がすっぽりと覆われている白い帽子とマスク姿である。目だけはかろうじて確認できるが、正直、素顔で会っても誰が誰だかわからない。
だから誰がどう言う理由でおまけをしてくるか全く見当がつかないのだった。

最初は間違いかと思って戸惑っていたけれど、小さな声で「おまけ」って言われたのが聞こえてから、「いらない」と言うようなことでもないし、ありがたく受け取ることにした。
多分、他の社員は気づいていない。桜木を除いては。

空いていた4人テーブルに着くと、続いて桜木が嬉しそうに席に着いた。

「わ、わ、ハンバーグに目玉焼きが乗ってるーーーー!翔ちんありがとう!」


「俺に礼を言われても」


「ウンウン、ちゃんとおばちゃんにも言って来た。だって目玉焼きだよ、すごい」


「単純だな」


「翔ちんは嬉しくないの?なら、僕が貰おうっと」

箸を伸ばす桜木の手の甲を二本指でピシッとしっぺした。



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