その笑顔が見たい
「葉月、具合悪いの?」
驚くほど力のない瞳が僕の顔を見て光を宿す。
「ううん」
掠れた声は微かに聞こえただけだった。
「顔色が良くないよ。それにコートも着ないで風邪引くよ」
「…あはは、翔太に心配されるなんて情けないな、私」
そう言いながら笑う顔がひきつっていた。
「なんか、あった?」
葉月は大人ぶって僕らのこと心配していたり、世話を焼いてたりして強いふりをするけれど、本当は寂しがり屋で甘えん坊だって葉月の母親がうちの親に話しているのを聞いたことがある。
「…ううん、なんにも」
少し間を置いて答える葉月の顔は何も無いって顔じゃない。
黙ったままじっと僕を見ている葉月の顔が一瞬崩れたように見えたけれど、すぐにいつものような笑顔になる。
「なに?どうしたの?」
あの一瞬見せた表情が気のせいだったらいい。なのに心がざわざわする。
それが何かはかわらない。
もう葉月はいつものように目尻をうんと下げて、口角をきゅっとあげた笑顔を見せている。
ただそれだけのことなのに、今はひどく安堵する。
「勉強の息抜き」
ああ、受験勉強に息詰まったって訳か。
安堵する僕の隙を見て葉月が一歩近く。
「何、買ってきたの?」
と言いながら僕が持っていたコンビニ袋をのぞいた。
「ちょっとー!覗くなよ」
「あー、なんかやましいものでも入ってるの?エッチなヤツとか」
「はぁ?」
そんなの買ってない。買ってないけれど、ちょっとエッチな記事が載っている雑誌を立ち読みして来たことを見透かされたみたいで焦る。僕だって健全な男子だ。それくらいいいだろと心の中で言い訳をする。