その笑顔が見たい
「そこんとこってなんだよ」
「だーかーらー、はーちゃ…、イテ!」
言い終わる前にすねを思い切り蹴った。
「翔ちん、痛いよ!」
すねをさすりながら涙目になって訴える桜木は、また食べるのが遅い。
僕の皿は半分以上カレーが無くなっていた。
トンカツは一切れ。彼女がくれたトンカツを味わいたくて最後まで残しておく。
あの彼女がおまけしてくれたのは「いつものこと」だからだろうか?
それとも他に理由でも?
いつもならそんな出来事なんて気にも留めないのに、この時ばかりは心に引っかかる。
会議の時間が迫っていることもあるが、まだ彼女が厨房にいることを確かめたくて、カレーを急いで流し込む。
いつも以上に早食いの俺を苦笑いしながら、置いて行かれないようにと急いで食べている桜木を遠慮なく置いて食器返却口に向かった。
「ごちそうさまでした」
手だけ出て食器を片付けるいつもの女性の声が聞こえた。
「ありがとうございました」
いつものお気にりの声は、さっきの彼女だった。