その笑顔が見たい
「落ちた」
何食わぬ顔で指摘すると「あ、あ!」と慌ててプリンをテーブルからすくってまた口に入れる。
「落ちてたけど」
「いいのよ、3秒経つ前に食べれば。って、そんなことどうでもいい。聡くんって、お隣にいた聡くん?」
「うん」
「いつ?」
「一ヶ月前くらい?」
「なんで、もっと早く教えてくれないのよ!で、どこで?」
「取引先の病院で働いていた」
「聡くん、お医者さんになってたの?」
「ううん、スポーツトレーナー」
「へぇ!」
「で?で?葉月ちゃんは?」
食い気味に聞き出そうとしている母親を無視してチャーハンを食べているとソファで新聞を読んでいた親父が「元気にしてたか?」とまともな質問をして来た。
「ああ。元気そうだった。あの頃より一回り大きくなってたよ、背も高くなってガタイも良かった」
「そうか」
俺が一人っ子だったからか、親父にしても聡と葉月は子供のように可愛かったに違いない。
だからこの十年、やはり心配はしていたんだろう。
「こっちに来てくれてもいいのにね」
母親が何を思ったか拗ね始めた。