その笑顔が見たい
タバコの匂いが嫌だとは思わないが、外出前に服や髪の毛に付くのが気になって喫煙ルームには寄り付かないのを柳さんも知っている。
「どうだ、新しい担当病院は」
「なんとかやってます」
「この間、T総合病院の院長と会う機会があってな、お前のこと褒めてたぞ」
T総合病院は最近院長が変わり、昔からの古い体質を変えたくて試行錯誤していた。
だからそれを踏まえての機器の入れ換え提案書を提出したばかりだった。
「いい反応でしたか?俺には素っ気なかったんですけど」
「そりゃそうだろ。若造にいきなりあんな提案書を渡されたんだ」
提案書の内容は上司である柳さんも目を通している。
院長に渡したいと直談判したら、行ってこいと快諾してくれたのも柳さんだ。
「提案書もさらなることながら、お前が病院のことをよく熟知しているって。
誰の入れ知恵だと笑いながら言ってたよ」
「柳さんの背中見てきてるので」
「やっぱ、俺か!じゃ、俺が褒められてるようなもんじゃないかよ」
わかってるくせに明るい笑い声が響き渡る。
「ま、そのままやってみろ。しくじった時は俺が責任を取るから思うように動け」
柳さんの懐の深さは本当にありがたい。
俺が自由に動け、それなりの営業成績を上げられるのは、柳さんのおかげだと思っている。
「ありがとうございます」
T総合病院の営業を指南してくれるために呼ばれたのかと思っていたが、話はそれだけではなかった。