その笑顔が見たい
午前中の外回りは朝礼が終わったと同時に、社を飛び出した。
一分一秒でも無駄な時間を作りたくない。
午前中に二軒。
一軒目はスムーズに終わった。
二軒目に相手先に着いた時、時刻は十時三十八分を示していた。
一時間で終われば、食堂が開いている十四時までに行けるだろう。
自分の必死さに失笑しながら、それでも今日は絶対に食堂に行きたかった。
二軒目の話が長引いた。
しかし営業に繋がると思うと、仕事として詰めるところまで詰めておきたかった。
時計を気にしながらも、あからさまに時刻を見るのを避ける。
切り上げてからが早かった。地下鉄の駅まで小走りになる。
なんとか十三時前に帰社することができた。
カバンを置き、慌てて食堂へ向かう。
するとちょうど食事から帰って来た桜木と会った。
「あー、翔ちん!」
「悪い、急ぐ」
今は桜木のどうでもいい話には付き合ってられない。
エレベーターを待っているのももどかしく、階段へと足を向けると桜木が付いてくる。
「えー、食堂?」
「ああ」
「僕、もう終わっちゃったよー」
残念そうに呟く桜木はまた「おまけ」が貰えなくて落ち込んだんだろう。
「あのなー」
構わず、階段を駆け上ろうとした時だった。
「今日、葉月ちゃんいなかったよー」