その笑顔が見たい
思うようにいかなかったからか口をとがらせて僕を睨む。
葉月だって本心で睨んでいるわけじゃない、はずだ。
けれど、この年頃の二つの年の差がたまに大きく感じることがある。
睨んだ葉月の目が少し潤んでいて、妙に艶っぽかった。
それを見てハッとする。
ドギマギする胸の鼓動を隠すように、僕は急いで目を反らし「生意気ってなんだよ」と独り言のようにつぶやいた。
その言葉が聞こえなかった葉月が「えっ?」と聞き返す。
「なんでもない」
自分よりも少し早く大人になっていく葉月の姿を見て僕は当惑して眉をひそめる。
照れを隠すように少しぶっきらぼうな言葉しか出てこない。
「なにもないなら帰るけど」
自分の心に理解できない感情が浮かび上がったことをごまかすように「じゃあ」と手を挙げ、葉月から離れようとした時、葉月が僕のグッと腕を掴んだ。
そのまま引っ張られるように葉月に振り向くと…
「ちゅっ!」
葉月の唇が僕の唇に触れた。
「!」
不意打ちのキスに立ちすくむ僕を置いて、葉月は「じゃあね」とだけ言って僕の前から去って行った。
僕のダウンジャケットを着たまま。
小さな背中、僕はその後ろ姿を唖然としたまま見つめていた。