その笑顔が見たい

「その王子様を一目見たくて、来た時は教えてくださいってみんなに言っておいたの」


「…で?」


「…一週間後に会えた」


俺が調理場の王子様だとか何だとかそういう話は嬉しそうにキャッキャと話していたのに、急に言葉が途切れ途切れになる。


「ビックリしたの…翔ちゃんが大人になってて。ネクタイをして髪の毛も短くなって……カッコ良くなってた」


葉月?それ、自惚れてもいいの?
照れながら話す葉月を背中から見つめている自分が照れくさくて、嬉しくて、きっとデレデレな顔をしているだろう。
葉月がどんな顔をしているのか無性に見たくなったけど、葉月に自分の顔を見られなくてよかったと思う。


「俺だけにおまけがつくの不思議だったんだ」

照れくささを隠すように話題を「おまけ」に移す。


「ふふふ、翔ちゃんが食堂に来ると窓口に立っている女性が合図をするの」

あ、しまった。葉月は「王子様ネタ」が相当お気に入りのようで、また嬉しそうに話をする。もっと葉月の気持ちを聞きたいくせに、自分で話を逸らしておいて後悔をする。
それでも嬉しそうに話す葉月を見てるのも悪くない。

「なんて?」


「近くの人に『王子キタ』って」


「なんだ、それ」


「そうすると佐々木さんが…あ、調理場のリーダー的存在でトラブルの時に翔ちゃんが声をかけてあげた女性ね。その彼女があれこれとおまけを考えるんだよ。翔ちゃんの選ぶメニューに応じて」


「たぬきうどんに海老の天ぷらとか?」


「そう!えこひいき」


「怒られないの?」


「うん、それは大丈夫。ほら、多めに作ってしまったものとか、私たちのまかないで食べるものだから」


「そんな裏話があるなんてなぁ。なんかスッキリしたな」


「みんな翔ちゃんが来ると楽しそうに仕事をする姿を見てて私まで嬉しくなっちゃった」





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