その笑顔が見たい
終業式の日、聡が転校したと担任がクラスに伝えていた。
急なことで担任も事情がよくわからないとのことだった。
クラス中が騒がしくなり、聡と仲の良かった僕は質問責めだったが僕だって知らない。
逆に知りたいくらいだ。
二人がいなくなったあの日、すぐに聡と葉月の携帯に電話したけれど、番号が使われていないというアナウンスが流れるだけだった。
本当にこのままもう二度と会えないのか。
唇に残る葉月の感触。
ふわっと香る葉月の匂い。
「はーちゃん…」
照れてなかなか呼べなかった呼び名で葉月を呼ぶ。
あの夜の葉月の様子がいつもと違ったのは気のせいではなかった。
ちゃんと話を聞き出していれば良かった。捕まえておけば良かった。
後悔の波が押し寄せ、無意識に握られた拳に力を込めた。
けれど
人間という生き物は時間という万能薬がある。
あれだけ悲しく寂しい気持ちは時間とともに徐々に薄れていき、高校生活は何もなかったように送った。
大学でもそれなりに楽しく過ごしていた。
そして現在、そこそこの企業に就職し4年目。医療機器メーカーの営業職に就いていた。
僕の人生は大きな挫折も敗北感もなく淡々と進んでいた。
それはありがたいことでもあるが、どこか物足りなさを感じている。
時折、遠い昔に大切なものを忘れたまま、時間だけが過ぎているような思いに駆られる。
しかし日々に忙殺され、その”思い”は見て見ぬふりをする。
気がつけば、二人が消えてから十年の月日が経っていた。