その笑顔が見たい
「あれは?」
「もう、翔ちゃんとお別れだと思ったから。最後にもう一度翔ちゃんに会いたくて」
今なら葉月のあの時の思いをわかってやれる。
高校生だった葉月にはあれが思いを伝えるための精一杯の行動だったんだろう。
あの頃の俺には理解できなかったことが、大人になった今は十分に理解できる。
あの時の葉月の思いが伝わってくると切なくて、愛おしくて、たまらない。
まだ何かを話そうとしている葉月の唇を自分の唇でそっと塞いだ。
あの時と同じ触れるだけのキス。
葉月の反応を確かめるように見ると目を潤ませ、俺の顔をじっと見つめてきた。
その表情は妙に色っぽくて、二十八歳の女性なんだと改めて実感したら、気持ちを抑えることなんてできなかった。
もう一度、葉月の唇に自分の唇を寄せる。
何度か触れるだけのキスの次には葉月の下唇を舌でなぞる。
ピクッと揺れる華奢な肩が離れないように両腕で背中を囲んだ。
と同時に、押し付けるように奪うように唇を吸い上げ、口内に舌を滑り込ませた。
「ん…」
葉月の吐息が漏れる。
そんな声を聞いたら、止まれない。
もっともっとと言うように口内を舌で味わっていた。
長い長いキス。
一秒でも離れたくなくて何度も何度も繰り返す。
夢中になっていた俺は「はぁはぁ」と艶かしい吐息を吐いてる葉月の姿を見て体の中が熱くなるのを感じた。
もっと葉月を自分のものにしたい。
葉月の背中、シャツの裾から手を滑らす。
「あ、ダメ」
女性お決まりの可愛い拒否。
そう思い誤った俺はかまわずもっと上へと手を伸ばす。
と、葉月がパッと離れた。
今度は全身を俺の体から離すように、体を起き上がらせそのままぺたんと座った。
早まった。
今日再会したばかりだろ。
バツが悪くてカッコ悪くて、体を起こしながら謝る。
「ごめん、抑えがきかなかった」
「…」
「葉月…」
じっと俺を見ていた葉月がボソッとつぶやいた。
「慣れてる」
「えっ?」
「こう言うこと、するの慣れてるみたい」
「あ…」