その笑顔が見たい
確かに慣れてる。
大学の時も社会人になっても絶えず誰かがそばにいた。
それが体だけの関係の時も、心を伴っている時も。
逆に葉月が場慣れしていないのかと思うとにわかにほくそ笑む自分がいやらしい。
だって仕方ないだろ。葉月の過去の男の話を聞いたら嫉妬するのは目に見えているんだから。
過去の男?じゃ、今は?
「葉月…(付き合ってる人はいるのか?)」
喉まで出掛かって、問いかけるのをやめた。
この話題になると自分に火の粉が振りかかる。
紗江との関係をはっきり精算してないことには葉月ときちんと向き合えない。
向き合いたくないと思った。
言いかけた言葉を飲み込むと葉月が「ん?」とあどけない顔を向けていた。
「…なんでもない」
今夜は葉月を帰したくない。
ただ一緒にいるだけでいいんだ。
なんて手を出しかけた今は言えない。
さて、どうしようか…
明日は仕事だし現実的には無理だよな。
時刻はすでに日付が変わろうとしていた。
俺の気持ちを知ってか知らずか、葉月が「さてと」とベッドから降りた。
「もう帰るね」
葉月が「家に帰る」ということ自体が違和感がある。
一緒にいた頃も確かに家に帰っていたけど、隣に戻るだけのことだったから。
「…送る」
「大丈夫だよ、まだ。タクシー拾うし。翔ちゃん、明日、仕事だし遅くなったら起きれないよ」
「葉月だって仕事だろ。ところで今、どこに住んでるんだ?」
「えっと…〇〇駅が最寄り駅」
それは同じ沿線で一つ先の隣の駅だった。