その笑顔が見たい
「…はぁ?こんな近くに住んでたのか。住所言え」
葉月から言われた住所をスマホで検索する。
最寄駅は違うけれど、葉月の家はここから1kmと離れていなかった。
「近っ!なんでそっちの駅使ってんだよ」
「だって不動産屋さんがそっちの駅を進めたんだもん」
「葉月は昔から方向音痴だからな。ここからなら歩いて帰れるぞ」
「えー、そんなに近いの?」
「俺の歩幅なら10分もかからないけど、葉月はなぁー」
ニヤリと笑う。
背の高さが違うんだから当たり前なんだけど、葉月は俺たちよりいつも歩くのが遅かった。
「うるさい!」
プンプンとセリフが頭に浮かんできそうな葉月をからかいながら帰り支度の済んだ葉月と手を繋いだまま玄関を出た。
ああ、帰したくないな。往生際の悪い俺。
チラッと葉月を見るとすでにさっき見せていたオンナの顔は消えていた。
(ああそうですか、葉月さんは再会したばかりなのにあっさりしてますね)
完全にただの拗ねた子供。
一緒にいたきゃ、素直に言えばいいものを。
閑静な住宅街といえば聞こえはいいが、夜の公園は薄気味悪い。
こっちの最寄の駅よりもひとつ先を進めたのは、女性に歩きやすい道を選んだのかもしれない。
もうすぐ梅雨がやってくる。
湿った空気は少し歩くだけでも汗ばむくらいだ。
「車で送ってくれるって言ったのに」
「車の方が面倒だろ」
少しでも葉月と長くいたくて歩いているのにそんなことを言うか?
手を繋いだまま、二人は黙って夜道をゆっくりと歩いた。
程なく葉月が住むアパートが見えてきて、本当に近い距離に住んでいたんだと妙な感動を覚えていた。