その笑顔が見たい
第六章
葉月と再会し、自然な流れでキスをした。
高校生の時だったらありえないくらいスムーズな流れだった。
お互い大人になり、それなりの経験をしているからだよなと自分のことを棚に上げて、葉月の経験を考えたら寝不足気味になった。
出勤して働かない頭に喝を入れるために席に行く前に休憩室でコーヒーを買う。
長椅子に座ったまま、カバンから取り出した今日訪問する取引先の資料に目を通していると、喫煙室に柳さんがやって来た。
「おはようございます」
「おー、野村、いいところにいた」
「はい?」
「お前、結婚するんだって?」
柳さんが何を言ってるか理解できず唖然とする。
「なんの、話ですか?」
「あれ?違うの?ほら、S医院の永井さん。職場で噂になってるぞ」
「いやいや、待ってください。彼女とは出会ったばかりだし、そんな深い付き合いしてないし、結婚以前に付き合ってませんけど」
それまではニヤニヤと笑っていた柳さんが真顔になった。
「…そうなのか?」
「はい」
「今後は?彼女と結婚は考えてないの?」
「ありえません」
俺が即答するのを聞いて、何かを考えているようだった。
「わかった。噂話だけどさ、お前、その辺、気をつけて行動しろよ」
「…わかりました」
それだけ言って、柳さんは休憩室を出て行った。