その笑顔が見たい
職場に着くとすでに宮崎が仕事をしていた。
「おはよう」
「おはようございますぅ」
この後は必ずまつげをパタパタ。
つけまつげにマスカラ、アイラインで目を強調して女子力とやらを上げているようだが、俺にはクるものがない。
溶けかけたアイスを無邪気に食べる葉月の唇の方がよっぽど魅力的だった。
それを思い出し、つい口元が緩むのを手の甲で隠す。
すると宮崎は何を勘違いしたのかニコと笑いかけて来た。
苦笑いしか出てこないな。
午前中も外回りだったが、昼前にはオフィスへ戻って来た。
昨日、葉月と会ったばかりなのに、もう葉月の顔が見たい。
別れ際に連絡先は交換した。
もともとメールが苦手だから電話が基本だからと伝えてあった。
なのに構わず葉月が朝一でメールをして来た。
『おはよう。昨日はありがとう。今日も一日頑張ってね』
たわいもない文章なのに葉月が俺のことを思って送ってくれるというだけで嬉しかった。
このようなメールを過去に付き合っていた女性たちからも何度か貰っている。
初めてのことじゃないのに、その時とは嬉しさの度合いが違う。
メールは苦手と言っただろと言い訳をしながら葉月の番号をプッシュした。
「葉月?」
「翔ちゃん?おはよ」
「おはよう。お昼、食堂に行くから」
「うん、あ、これメールで返せば?」
わかってる、わかってるけど、少しでも声が聞きたいんだよ。
「メール苦手って言ったじゃん」
「そーだけど、忙しいでしょ」
そうだよ、朝は忙しい。忙しいけれど、葉月の声は聞きたいんだからしょうがないだろう。
「うん、じゃ、出かけるから」
「あ、うん。行ってらっしゃい」
通話が終わっても耳からスマホを離させなかった。
「行ってらっしゃい」という響きの心地よさが幸福感で胸をいっぱいにしてくれた。
「行ってらっしゃいか…」