その笑顔が見たい
B定食の窓口に着くとニコニコしながら女性がトレイを手渡ししてくれた。
「ありがとうございます」
いつもより丁寧にお礼を言った。
葉月が一緒に働いている同僚への見る目が前と変わる。
葉月と仲良く楽しそうに働いてくれているというだけで、彼女たちを好ましく思えてくる。
彼女たちはマスクに帽子という同じような姿でも葉月の姿はすぐに見つけられた。
葉月にわかるようにだけ目配せをしてその場を去った。
葉月の目尻がほのかに下がるのを見届けて適当に空いてる席を見つける。
桜木が来る前に食べ出していた。
「翔ちん、翔ちん、今日もおまけ付き、春巻きがついてる」
「ああ」
そんなにおまけが嬉しいのか、ニコニコしながら桜木が問いかける。
「ところでおまけの裏話ってなんなの?」
「…やっぱいいや」
よく考えたら自分が人助けしたことを自慢しているように思えて、語るのが恥ずかしくなった。
「えー、言いかけたんだから教えてよ、気になるじゃん。どこから聞いたのー?誰が教えてくれたのー?」
「桜木、声小さくしてくれる」
「あっ、うん」
急に小声になってコソコソし始めた。それこそ怪しいが言わないといつまでも聞いて来るだろう。
「葉月」
「えっ?葉月ちゃん?」
急に声が大きくなったから「うるさい」と制す。
「あ、ごめん。だって…葉月ちゃんっていうから…」
また怪しげに声をひそめて「あっ!」と今度は小さく声をあげた。
「もしかしてあそこにいる葉月ちゃんって、翔ちんの大好きなはーちゃ…イテ!」
最後まで言わせずにすねを蹴った。
「もうすねを蹴るのやめてよ、痛いよ」
「蹴られることを言うから」
「ククク!」
こんなやりとりなのに桜木が楽しそうに笑った。
「翔ちん、今日は朝から嬉しそうなのは、そっか、そっか、そう言うことか」
ここまで話してると宮崎がトレイを持ってこちらに歩いて来る姿が見えた。
俺は声を低くして
「桜木、この話はここまで」
「わかった。でも後でそこんとこ詳しく」
「わかった」
葉月とのことなら言いふらしたいくらいだ。
俺はすっかり浮かれていて、この時、何かを大事なことを忘れてしまっていた。