その笑顔が見たい

一日の仕事が片付いたのは午後の六時を過ぎていた。
火曜日、平日のこんな日に紗江に会ったことはない。

紗江に連絡を入れて、待ち合わせのカフェを指示した。
紗江の病院も俺の会社も接点のない繁華街。

紗江との要件が終わったら葉月に会いたい。
連日は迷惑かなんて気にしていられない。
今は十年と言う時間を埋めたいんだ。
その前に紗江とはきっちりと関係を精算しよう。

カフェに着くと紗江は先に来ていた。
いつものようにスマホもいじらずじっと外を見ている。
俺が来るのを一途に待っているように。
第一印象で可愛い人だと思った。
好きになれるかはわからないが、会っていくうちにそう言った感情が芽生えるかもしれないと思った。

その感情が芽生える前に、葉月と再会した。
葉月は好きになれるかも、恋愛感情が芽生えるかもなんて考える間もなく、愛おしいと思える人。
会うたびに心が震えて、守りたくて、抱きしめたいと思う人。
再会して一日しか経ってないのに、すでに葉月に溺れている。


「お待たせ、待った?」

「ううん」


俺を見上げる顔はなんの疑いも持たずに嬉しそうに微笑む。
その笑顔に心が痛み、顔がこわばる。

「お店、出ますか?」


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