王様と私のただならぬ関係
 


 なんとか会社に間に合った明日香は、
「ちょっと歩いてきまーす」
と言って、社内を回り、各部署に届け物をしていた。

 広い社内を歩き回る仕事は、眠気覚ましにちょうどいいので、みんな、眠いときに回りたがるのだ。

 緋紗子が、
「なによ、遅刻しといて眠いの」
と言っていたが。

 いやー、寝るには寝たけど、眠りが浅いうえに、夢見が悪かったんですよねー、と心の中でだけ返事をしていた。

 口をきくのもちょっと億劫だったので、実際には、
「いやー……」
しか出ていなかったようなのだが。

「おはよう、日下部《くさかべ》さん」
と受付では、静が今日も素敵な笑顔で、出迎えてくれた。

「おはようございます」
と言ったあとで、はあー、と溜息をつくと、

「どうしたの?」
と訊かれる。

 今日も窓から差し込む朝日の下で静は美しく。

 つい、秀人と手に手を取って去っていくお姫様の夢を思い出してしまったからだ。
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