王様と私のただならぬ関係
「明日香は俺を殴り殺しかけたと思っているようだが、別に殴られて意識を失ってたわけじゃない。

 明日香にフラれたショックで立ち上がれなかったんだ」
と言う大地に、

「そりゃそうだよなー。
 人を殴り殺すほどの硬いケーキってないだろ」
と言って、ははは、と笑ったのだが、そこだけは真面目に、

「いや、ほんっとーに硬かった」
 目の前で、火花が散った、と大地は言ってくる。

「いっそ、食べてみたいな、そのケーキ」

「美味かったらしいぞ、他の部員が言うには」

「食ったのか、みんな。
 お前を殴り殺しかけたケーキを……」

「運動部だからな」

 いや、体育会系の人間にお前自身が偏見がある、と思っていた。

「……みんなで食ったら、証拠隠滅の完全犯罪だな」
 今度やってみるよ、と言って、大地と別れた。

 研究棟に戻り、廊下を歩いていると、明日香がポスターと間違ったという窓から、今度はシャーレを手に、やはり、動かない秀人が見えた。





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