王様と私のただならぬ関係
 



 車をとめ、いつか水をくみに来た波止場を二人で歩く。

 あのときは楽しかったな。

 楽しかっ……

 楽しかったっけ?

 まだ不思議なこの人に対して、固まっていたような……。

 いやいや、楽しかった、と思い直す。

 夜空と海の狭間を見、今、此処では見られない、海水をくもうとする巨大な柄杓を思い浮かべた。

「別れようか」

 ふいに秀人がそんなこと言ってきて、明日香は足を止める。

「いやまあ、付き合っていたかも謎なんだがな」
と秀人はおのれの顎に手をやり、研究中のような顔で小首を傾げていた。

 冷たい夜の風が吹いていて、足許のすぐ真横には真っ黒な海水がある。

 飛び込もう。

 というか、今、意識を失って、ふらっと此処に突っ込みたい、と思ったとき、秀人が言った。

「俺たちは、一足飛びに行き過ぎた」

 そ、そうですよね。

 誰かに助けて欲しかった私の我儘から始まったことで、貴方が望んだことじゃ……

 ……望んだことでしたよね。
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