王様と私のただならぬ関係
 今まで自分が海に落ちたい、と願ってたのだが、今は、この男を突き落としたい、に変わっていた。

 そのとき、さっきの自分のように、水面と夜空ギリギリのところを見ていた秀人が振り返った。

「俺たちは、一足飛びに行き過ぎた。

 だから――

 やり直そう、最初から。



 ……って、なんだ、その鞄」

 秀人の視線に、明日香は固まる。

 今、まさに、横から鞄ではたいて、秀人を海に落とそうとしていたところだったからだ。

「……お前、今、俺を突き落とそうとしただろう」
と横目に見て言われる。

 め、滅相もございません、と明日香は口もきけないまま、ふるふると顔の前で手を振った。

 秀人は、黙ってこちらを見ていたが、
「まあ、いいか」
とぼそりと言う。

 まあいいか?

 海に落とされようとしたのに?

 おお。
 王様、なんとお心の広い、と思っていると、
「別れようというのに怒って俺を突き落とそうとしたってことは、俺を好きだってことだろう?」
と言ってくる。
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