王様と私のただならぬ関係
 だが、秀人は春とはいえ、まだ冷たそうな海面を見ながら、
「……撲殺は警戒してたんだが、溺死は警戒してなかったな」
とちょっぴり嫌味も言ってきた。

「い、いやいやいや。
 ほんとに落ちたら、一緒に飛び込もうとは思ってましたよ~」
と苦笑いしながら言って、

「なんの助けになるんだ、それ」
と言われてしまう。

 お前を引き上げる手間が俺に増えるだけだろう、と言ったあとで、秀人は、

「……手でもつなぐか」
と言ってくる。

 ははははは、はいっ、と思いながらも固まり、動けないでいる明日香の手をそっと秀人が握ってくれる。

 そのまま、二人で埠頭の先まで歩いた。

「面白いもんだな」
と夜空を見ながら秀人は言う。

「お前のことをなんとも思ってないときは、幾らでもなんでも言えたし、出来たのに。

 好きだと思ったら、なにをするにも言うにも勇気がいる」

 今、好きって言いました?

 もう一回お願いします、と思ったが、自分もまた言う勇気がなかったし、せっかくのいい雰囲気をだいなしにしそうだったので、黙っていた。
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