王様と私のただならぬ関係
 




「いよいよ、明日、社内見学ですっ。
 緊張しますっ」

 翌々日、秀人の家のリビンクで明日香が拳を作っていると、秀人が少し笑ったように見えた。

 明日香は背後から忍び寄り、斜め後ろから秀人の表情を窺う。

「……やめろ」
と言われ、明日香は言った。

「あの、二人で居るときも目に見えて笑ったりしないの、なんでですか?」

「緊張してるからだ」

 そんな、私ごときに緊張とかっ、とつかんでいたソファから手を離し、赤くなる。

「で、では、そのうち、笑いますか?」
とソファの左右後ろから顔を出して、窺いながら訊いてみると、

「まあ……そのうちな」
とやっぱり、ちょっぴり笑ったように見えた。

「結婚は悪いものじゃないかもしれないが」
と肩にかかった明日香の手をすげなく払いながら、前を見たまま秀人は言う。

「上司の言うことは間違っていた。
 お前の方が家事より余程、邪魔だ」

「ええっ」
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