王様と私のただならぬ関係
海だ。
いつも目の前にあるのに、久しぶりに見た気がする、と明日香は思っていた。
会社からそう遠くないのだが、こうして、休日に訪れることなど、まずなかった。
朝の光にきらめく海面の下には、きっとクラゲも居るだろう。
秀人は釣り場になっている波止場まで車を持っていき、紐のついた白いバケツで海水をくみ上げては、車の後ろに載せているポリタンクに運んでいた。
「私もやりましょうか」
と言ってみたが、
「いや、重いからいい」
と言う。
そう言ったとき、秀人は後ろを向いていて、後ろ姿しか見えなかったので、なんだか普通の男の人に言われているみたいで、どきりとした。
……そう考えると、私、結構、あの顔にやられてるな、と思う。
違う意味で。
なにかときめくようなことを言われても、現実離れした美貌と浮世離れした雰囲気に、これ、何処までほんと? とか思ってしまって、彼の放つ言葉や行動に集中できない。