添い寝は日替わり交代制!?
1.お誘いは突然に
 アテもなくブラブラ歩く。
 中島 心春(なかじま こはる)20歳。

 短大を卒業し就職して1年目。
 親友同士、近い職場に就職が決まった時は2人で飛び跳ねて喜んだ。
 憧れだった1人暮らしは親友の田中 陽菜(たなか ひな)とのルームシェアで実現した。

 それなのにどうしてトボトボ歩いているかと言えば、陽菜に彼氏ができたから。

 小柄な心春が力なく歩けば体の線も細いせいか、風に吹かれてそのまま消えてしまいそうに見える。

 肩の上でふわふわした緩いパーマが柔らかそうに揺れる。

「はーぁ。」

 ついため息が漏れる。

 男連れ込み禁止にしてたわけじゃないし、なにより陽菜の幸せそうな顔を見るのはこちらも嬉しい。

 それにしても、こう毎度のように部屋に来られては居場所がなかった。

 気を遣って毎日仕事の後もブラブラして遅く帰ってみたり、たまにネットカフェで時間を潰すこともある。

「今日もネットカフェかなぁ。」

 そのつぶやきが誰かに聞かれることはなかった。
 ……いつもなら。

「中島さんネットカフェで寝泊まりしているんですか?」

 急に声をかけられてギクリとする。

 低音で無駄にかっこいい声。
 聞き覚えのある声に振り向けば、これまた無駄に男前で長身な男性が立っていた。

 濃紺のブランドスーツに身を包み、それを嫌味なく着こなせてしまうのはスタイルの良さなのか、はたまたモデル並みの見た目のせいなのか。

 でも…心春はときめかない。
 ときめかない……わけじゃないけど、圏外っていうか、なんというか……。

「佐々木課長!お疲れ様です。
 ネットカフェで寝泊まりしてるわけじゃないんです。」

 佐々木 貴也(ささき たかや)同じ職場の上司。
 若くして課長になるほどに仕事もできる。
 最近では次のポストの噂まである。

 若くして……。
 課長になるのには若かったかもしれないけど、心春からしたらちょっと……。

 おじさんと言ったら失礼だ。
 おじさんには見えない。

 それでも32歳で1回り違うと聞いた時は小学校に同じ時期に通ってなかったどころか、心春が小学校入学と同時に佐々木課長は大学生になっている。

 そういう人達と働くんだなぁと身の引き締まる思いがしたのを覚えている。

 だからいくらかっこよくて仕事も出来てみんなの憧れでも、心春にとってはただの上司だ。
 この言葉を聞くまでは。

「行くアテが無いように見受けられますが?
 もし良ければ私のマンションに住んでも構いませんよ。」

 私のマンション……に住んでも構わない?
 え?佐々木課長のってこと!?
 それってつまり佐々木課長と住むってこと!!?
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